1.介護分野のリスクマネジメント (基礎編)

1−A『賠償責任』とは?

さて、前項1−@では「リスクマネジメントの仕組み」についてお話をしました。これからこのコラムで扱っていくリスクマネジメントの対象は、「施設ご利用者のケガなどの事故」ということなので、まずは賠償責任という法律的なお話をしておかなければなりません。大変眠くなる話なのでコンパクトにまとめたいと思います。

 

「AさんがBさんに損害を与えました!」というところから、賠償責任の話は始まります。例えば、AさんがBさんに交差点で追突し、Bさんの車が壊れBさんがケガをしてしまった、というケースがあります。また、AさんがBさんに売った商品が欠陥商品で、これによってBさんがケガをしてしまった、というケースもあります。

当然Bさんは、自分の損害を弁償するようにAさんに要求しますが、Aさんが応じてくれるとは限りませんから、Aさんの要求に強制力をもたせる必要があります。この強制力を持たせるのが、賠償請求の根拠となる法律です。

賠償請求の根拠になる法律はたくさんありますが、代表格の2つだけご紹介します。1つは「不法行為責任」もう1つが「債務不履行責任」と言います。さて、ではこの代表選手2名はどのように違うのでしょう?

「不法行為責任」 と 「債務不履行責任」

その違いはAさんとBさんの関係にあります。AさんとBさんが無関係(契約関係にない)場合は、「不法行為責任」を根拠に賠償請求します。AさんとBさんが元々契約関係にあり、その契約によって損害が生じた、という場合が「債務不履行責任」となります。

ですから、AさんがBさんに追突した例は「不法行為責任」で、賠償請求することになります(AさんとBさんは交差点で初めて出会ったアカの他人である)。

また、AさんがBさんに売った商品が欠陥商品であった例では、AさんとBさんの間には売買契約があり、その契約が原因で損害が発生しているので、「債務不履行責任」で賠償請求することになります。

では、この2つのケースは賠償請求ということからみるとどのように違うのでしょう?簡単に申し上げますと、債務不履行責任で賠償請求する方が一般的には、請求者に有利ということになります。それは、契約により賠償請求する側が結果的に守られるカタチになるからです。さきほどの例で言えば、AさんはBさんに対して、欠陥のない商品を売らなくてはいけない義務が契約によって生じているので、この義務を履行しなかった責任を負わなくてはならないからです。ですから、債務不履行責任のことを「契約責任」とも言います。

このように、契約というのは当事者双方に義務を負わせる力があり、その義務が履行できずに相手に損害が生じたときは、その損害を賠償する責任が生じるということになります。

ですから、施設のご利用者がケガをされて、施設に対して賠償請求をするという場合は、施設とご利用者の間に必ず契約が締結されていますから、「債務不履行責任」という法律が根拠になるのです。

さて、それではこの施設とご利用者との間に締結されている契約には、「施設はいかなる時でも、ご利用者の安全を守らなければならない」という内容は盛り込まれているのでしょうか?さきほど申し上げましたように、債務不履行責任というのは、契約が履行できない責任を問うわけですから、契約内容にそのような約束が盛り込まれていなければなりません。

しかし、施設入所契約書(他の名称のものもありますが)のどこを見てもそんなことは書いてありません。では、なぜご利用者がケガをされたとき、施設側は賠償請求をされてしまうのでしょう?「社会福祉施設は入所者の安全に配慮する義務がある」(これを「安全配慮義務」という)と言った人がいて、これが法律と同じ効力をもっているからなのです。こういったことを誰が言った場合、法律と同じ効力が生まれるのかと言えば、最高裁判所です。

さて、この「安全配慮義務」はいったいどういうものなのでしょうか?これは事項でご説明いたします。

「社会福祉法人は施設入所者対して、入所者の生命健康の安全を配慮する義務を負っています。最高裁判所は昭和56年2月16日に、安全配慮義務の一般論について次のように判示しています。ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者においては、一方が他方にその生命および健康などを危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を信義則上負っているものと解すべきである。」


1-@リスクマネジメントの仕組み

1-A『賠償責任』とは?
       

 

1-B「安全配慮義務」とは?