
介護保険・通所リハビリ中のケガ
【当人の状況】
認知症(記憶障害による)で要介護1、息子夫婦と二世帯同居、 配偶者は6年前に他界。3年前から認知症と診断されて、調理は火の消し忘れがあることから 3食とも差し入れまたは一緒に食べている。その他は概ね自力で生活している。
【ケガの状況】
週3回のデイサービスを利用しているが、リハビリ中に逸れたボールを追いかけて転倒した。その際にそばに置いてあったエアロバイクとともに倒れたため、サドルで胸を打って肋骨を 3本骨折してしまった。家族は寝たきりになるのを恐れて、骨折が治ってからも、「リハビリはしないように」介護事業者に要望を出した。 |
【知恵と工夫】
・まず、一般論で事業所の責任について言うと、当人にとってリハビリが有効と評価されている 前提でのリハビリ中の予測できない怪我は、介護事業所に賠償責任は生じません。
ただし、今回のケースでは、すぐ横にエアロバイクが設置してある状況(運動スペースが狭い)でのボール
リハビリは、事業者の安全配慮義務が不足している可能性はあります。
・本質的な問題点は、家族が「転倒は困るからリハビリはさせない」という姿勢です。
せっかくデイサービスに参加しても、1日中イスに座りっぱなしでは、体力・筋力は衰えて、
結果的に転倒リスクを高めることに繋がります。さらにデイサービスにも出ないことになれば、 将来、寝かせきりに近づくことにもなります。寝かせきりの少ない欧米でも座らせっぱなしにより「お尻や肘に褥瘡ができる」というケースもあるくらいです。
・大切なことは家族と事業者が話し合い、真の自立に向けた対策を共有することです。当人に合ったリハビリの種類や強度を工夫することで、より安全に自立支援に資することが大切です。
事業所としても、家族の要望だからリハビリはさせないという方針は、介護保険の主旨(自立支
援)からむしろ離れていくことになります。
・さらに、「転倒の原因=動くこと」ではないという点も理解しておく必要があります。
意外に多い転倒理由の一人に「薬の副作用」があります。降圧剤や安定剤には、ほとんどと言って良いくらい、眠くなる副作用があります。眠くなり意識の覚醒が保たれていない状況では転倒リスクは一挙に高まります。
転倒した時間と服薬時間の関係等についても注視して、服薬とリハビリを考えてみることも覚えておきたいものです。
(監修:PT 志垣健一朗)

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